画像は、キンベル美術館所蔵の役行者像です。
これから、役行者について解説を進めますが、
仏像には、それぞれ、込められた願いがあり、
その願いは、様々な形として表現されています。
仏像の表す様々な形が参拝者の心に伝わると
意外なことに気が付きます。
この一種の閃きの様な感覚が、仏像の持つ不思議な
魅力でもあります。
先ず、この話を進める前に、醍醐寺成身院の
齋藤明道先生から伺った話を例に進めます。
齋藤先生は、醍醐聖天党と醍醐山清瀧党に推薦を
して下さいました恩師です。
下の尊像を先入観なしでジックリご覧ください。
すると、ある疑問が生じます。
「この風変わりな装束の仏像は、誰なのか?」
通説では、役行者とされています。
「左手に持つ巻物には、何が書かれているのか?」
通常は、経文だろうと思います。
年代により多少の差異はありますが、役行者像の
典型的なタイプは、この形式です。
良く見ると頭巾姿は、婆藪仙人と良く似ていて、
役行者像の多くは、この婆藪仙人がモデルです。
とりあえず、知りたくなるのは、
「この姿を役行者と見なす根拠は何処ですか?」
実は、この疑問点が柱源神法の口頭試験問題の
一部です。
初めて、役行者像をジックリ見たのは石山寺の尊像で、
前鬼後鬼の有無は違いますが同じ型式の行者像です。
齋藤先生からの出題は、石山寺の役行者像を参拝して、
感想を述べるようにとの口頭試験でした。
この時、石山寺の御厚意で特別に尊像を参拝させて
戴けました。
当山派の柱源を継承するには、基本的な知識に加え、
ある種の閃きで気付かないと不合格になります。
ところが、これだけでは済まず更に別の難関が待ち
受けている非常に狭い門です。
内心は、初伝なら無試験の方が良いと思っています。
さて、先入観を捨て、次の問題が解けると答えが、
明確になります。
「この尊像は、賀茂役君ですか、秦役君ですか。」
人によっては、葛城役君との回答もあり得ますが、
理由を付けて説明できれば、葛城役君でも正解です。
柱源の祖師である法道仙人の姿を模倣するのは、
秦流と賀茂流が中心で、葛城流もありえます。
残念ながら、葛城流柱源の話は伝わっていないので、
葛城流のことは明確に分かりません。
この時代の中臣方と三輪方は、先祖伝来の信仰に
対する姿勢を変えていないので僧形を真似しません。
しかも三輪方は山岳修業ではなく、御神体の山を
参拝する修行方法です。
役とは租庸調の歳役を指すもので、君は姓(かばね)、
有力豪族に課せられた公役を束ねていた一族の長を
君と称しますが、この方は官職に就いた官人です。
役行者とは、公役を行う者との意であり、この中には
一般人も含まれています。
そこで、問題と成るのは、役君は僧装束まま山中で
何をしていたのか、この疑問が山場となります。
次回は、この続きから始めます。